大地震の日‐2

川崎で一夜を明かす事を僕は考えていたのですが、他の人はどうしても家に帰りたいという人もいて、いかにタクシーを捕まえるか、など相談しました。

実際店もタクシーを呼ぶサービスをしていたのですが、予想通り捕まらないのでした。


その間、実家の武蔵小山で待機している母に車で迎えに来てもらう案も考えましたが、あまりの渋滞の為それも見送る事にしました。


そこへ、ピアノ講師の彼氏が合流しました。
その彼は会社から貰った地図を持っていたのでした。



その地図を見て、少々驚きました。
なぜかと言えば、川崎から武蔵小山が意外に近かったからです。


普段電車しか乗らないので気がつかなかったのですが、大雑把に見て10㎞ちょっと、というところでした。
しかし、重いサックスを抱えて歩いて帰ろうなどとはなかなか思えません。
ところが、翌日に仕事があるならば歩いてでも帰らないと対応できません。
困ったものです。



そんなこんなで時間は過ぎてしまっています。
店は11時で閉めるそうで、その時刻に閉めだされるなら、その時点の9時前後の時点で動いた方が、まだ寒さもマシ、というものです。


そして店を出たは良いものの、なにか有効な策があるわけではありません。
そのうち一人は川崎の知人を頼って、50分程歩いて向かう事にしたのでした。



南武線を北に行くルートの人が2人居て、僕も普段なら乗り換えで使う武蔵小杉も途中なので、そっちの方へ歩いて、あわよくばタクシーを捕まえようという事になりかけましたが、地図でみた武蔵小山への最短ルートとは大きく外れてしまうため、僕は腹をくくって一人別れ、歩いて帰る覚悟を決めました。



この時、不謹慎ながら映画の1シーンのようだと思いました。
こういう時、テロップとかで「午後9時13分、○○、××と別れる」
なんて出るんだろうな~、なんて。



その後、南武線を北に行った2人とは別の2人は海老名方面で、はぐれてしまったようなので安否は今も分かりません。
しかし、きっとどこかで夜を過ごして、何とか翌日帰宅している事を願います。




さて、道はあまり詳しく無いのですが、さっき地図で見た限り、国道1号線をひたすら北に向かえば五反田に着く事が分かりました。

五反田の南西あたりに武蔵小山がありますから、とりあえず北上して適当なところで西に向かえば良いわけです。



10㎞ちょっとは車だと近いですが、歩くにはなかなかの距離です。
疲れがあまり出る前になるべく歩いてしまおうと思い、楽器を担いで歩ける最速の速度で歩きはじめました。


すると、たくさんの人たちが同じように歩いていたのでした。
これもテレビで見たシミュレーションと同じです。


ところが、ほとんどの人は反対方向の南を目指しているので、狭い歩道を歩くのは難儀です。
国道1号線が歩行者でこんなにあふれる事は想定外なんでしょうね…。


車道を見ると、全く動く気配の無い車が、もうすでに諦めたのか、誰もクラクションを鳴らさずに行儀よく列をなしていました。


とにかく、遅れて入ってきたメールを確認して「地下鉄復旧」なんて関係ねーよ、なんて心の中でつっこんだりしながら多摩川を越えて東京都大田区に突入。


そのまま環8を越え、環7と交わったところで、かすかな記憶を頼りに西へ方向転換。
ここで、大量の対向歩行者からは解放されました。


しかし、ここから少し上り坂になるのです。
肩がサックスの重みで痛くてしかたありません。

既に左右何度も肩を換えながら、休憩は一度だけコンビニで飲み物を買って済まし、とにかく疲れが出てくる前になるべく歩いてしまいたかったのです。


環7を歩いてしばらくすると、実家の住所の品川区に入りました。
ここで少しホッとしました。


余裕が出てきたのか、開店している店をのぞきながら歩いていると、テレビを見ながらのんびりと酒を飲んでいたりするので、なんだか非日常の中に日常を見た気がしました。


そのまま進むと、中原街道と交差します。
それも記憶を頼りに北東に向かい、やがて武蔵小山の道路標識が見えたところでおなじみの景色が見えてきました。


もう肩も足も痛かったのですが、ここまでくれば安心です。


メールをしていたのですが届いておらず、実家のインターホンを鳴らした時にはビックリされました。
まさか歩いて帰ってくるなんて思いもよらなかったみたいです。


家に着いた時刻は12時半頃だったので、3時間くらいかかった事になります。
携帯に万歩計がついているので確認してみると、歩いた距離は約13㎞、歩数は2万歩ちょっとでした。


まだこの時点では災害の全容は全く分からなかったのですが、
とりあえず実家に辿り着くことができて良かったです。


持ち歩いたサックスには余計愛着が沸きそうです。





終わり

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